2009年4月20日

マルクスが「直線形」と書いているもの(メモ)

K. Marxが、「複雑なものを評価する際にはより単純な共通要素に還元して考える」例として、多角形の面積の測定法をあげていますが、そこを、日本語訳では「多角形」ではなく「直線形」と訳しているものが多いようです。

『資本論』第1部(1867):第1篇第1章の8段落目:
Ein einfaches geometrisches Beispiel veranschauliche dies. Um den Flächeninhalt aller gradlinigen Figuren zu bestimmen und zu vergleichen, löst man sie in Dreiecke auf. Das Dreieck selbst reduziert man auf einen von seiner sichtbaren Figur ganz verschiednen Ausdruck - das halbe Produkt seiner Grundlinie mit seiner Höhe. Ebenso sind die Tauschwerte der Waren zu reduzieren auf ein Gemeinsames, wovon sie ein Mehr oder Minder darstellen.
『賃金、価格および利潤』(1865):「6」の4段落目:
To elucidate this point I shall recur to a very simple geometrical illustration. In comparing the areas of triangles of all possible forms and magnitudes, or comparing triangles with rectangles, or any other rectilinear figure, how do we proceed? We reduce the area of any triangle whatever to an expression quite different from its visible form. Having found from the nature of the triangle that its area is equal to half the product of its base by its height, we can then compare the different values of all sorts of triangles, and of all rectilinear figures whatever, because all of them may be resolved into a certain number of triangles.
原文ではたしかに「直線的な図形」となっていて、現在の中学、高校で使う用語「多角形」=「polygon」とはなっていません。「直線形」も「多角形」も数学の概念としては同じものなら、より現代的な「多角形」と訳した方がいいのではと思い、根拠づけの糸口をみつけようと、とりあえず、googleで検索をしてみました。

キーワード「直線形 多角形 数学 用語の変遷」の検索結果の中に、
(三重大学教育学部研究紀要 vol.46 教育科学(1995)pp. 63-77)を見つけました。

論文の主題とは違うのですが、引用文から用語の変遷:「直線形」→「多角形」を調べる糸口がありました。こんな具合です...
1875英国の幾何学教授法改良協会
    『平面幾何学教授條目』
1884-8改良協会
    上記『条目』に準拠して教科書
1888-9菊池大麓
    『初等幾何学教科書』
     ・改良協会の教科書に拠る
     ・用語「直線形」を使用
      (1898年の第10版も同様)
1902文部省(大臣は菊池)
    『中学校数学教授要目』(★)
     ・用語「直線形」を使用
1904林鶴一
    『新撰幾何学教科書』
     ・用語「多角形」を使用
1915菊池
    『幾何学新教科書』
     ・用語「多角形」を使用


★『中学校教授要目』(明治三十五年文部省訓令第三号)は国会図書館デジタルコレクションにありました。この「第三 幾何」/「第四学年」/「面積」の項に
   直線形ノ面積ノ等同」
と記載されています(p. 115上段)。

Marxが「直線形」と書いているところは、字面にこだわらず、現在なら「多角形」と訳すほうが、学校で習った用語と一致して、分かりやすいと思うのです。

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